いつまでも半袖シャツが仕舞えないという ややこしい秋も、
さすがにここまで押し迫ると、落ち着いて来ようというもので。
紅葉の便りもあちこちから聞かれの、
冬が間近だというお支度の話が聞こえて来のし。
着るものや食べるものも、
暖かいもの・ほっこり来るものが目につくようになり。
「そういや冬も節電奨励なんだってな。」
「つか、暖房の方が電力食うって話だぞ?」
機能性下着とか温感下着とか、いろいろ出回ってるから、
それを着るってのも手だけどよ。
けどなぁ、あれってのは一番下に着るもんだから、
暑いからって出先で脱ぎ着すんのは面倒じゃね?……などなどと、
妙に所帯臭い系統の話題に沸いてる、アメフト部の部室にあって。
「じゃじゃん☆」
少し大きめのスカジャンの裾をひるがえすほどのお元気さで、
自分でファンファーレを奏でつつ、
飛び込んでおいでなお人の登場。
学校が終わってから来たにしちゃ、随分とお早いお着きの子悪魔坊や。
知り合いのおねいさんがお店へ出る前、エステへ行くついでに、
拾ってもらいの、送ってもらったらしいのだけれど、
まま それはさておき。
「差し入れ持って来てやったぞっ。」
どーだとそこはまだまだ幼い両腕へ、
それでも頑張って抱えて来たのは、
まだ湯気が出ているほっかほかの、
「………嘘。」
「お前、これって罰ゲーム用とか言うんじゃなかろうな。」
何だ何だと集まって来たお兄さんたちが、
微妙に怪訝そうなお顔になったのも無理はない。
軽やかなくせっ毛の金髪に、真っ白なおでことふわふかな頬。
柔らかそうで瑞々しい桜色の口許からは、まだ小さめの白い歯が覗き、
金茶色という淡い色合いの双眸をたわめて屈託なく微笑めば、
誰もがつられて微笑み返してしまうほど、
見栄えだけなら それはそれはキュートでスィートな坊やなのに。
まだまだ幼い手足の いかにもお子様。
なので、生クリームたっぷりのショートケーキや、
マシュマロを浮かせたココア、
蜂蜜をかけたホットケーキ何ぞがお好きかと思いきや。
本人同様、特急クラスの辛口の、
ピザやカレーや、キムチに火鍋。
真っ赤なチリソースをかけた、
中華おこげが大好きというおっかなさ。
……なので
クラフト紙の袋にどっさりと入っていた、
可愛らしいほど小ぶりの鯛焼きの群れを見せられても。
中身はカラシやワサビなんじゃなかろうか、
いやいや弾ける何とかって炭酸系の、
ビックリ仕掛けつきなのかも知れんなどなどと。
どれほど日頃驚かされているのかの裏返しか、
こそこそとした小声でながらも、
警戒しておりますという囁きを
部屋中いっぱいにあふれさせるお兄さんたちであり。
「…あのなぁ。」
街なかでは怖いもの知らずの族を張り、
フィールドへ立てば立ったで、
ガチンコ勝負に集中して勇ましい皆さんであるはずが。
たかだか鯛焼きへそうまで怯えて警戒するかいと、
これへばかりは呆れた子悪魔さん。
「安心しな、これだけは甘いけど俺の好物だ。」
そうと言って、パクリと一番上のを摘まんで見せる。
それでも…辛いんじゃね?と案じる顔触れへ、
「いくら俺でも、
年少組より小さかったころから
マスタード塗ったのしか食えんかったりはしねぇって。」
「おお、そんな小さい頃からのご贔屓か。」
ここでやっとのこと我も我もとてが伸びるところが何とも現金だが、
体を猛烈に酷使するスポーツ選手は、
案外と甘いものもそうそう苦手ということはないようで。
こちらの皆さんも、このくらいのサイズのならばと、
あっと言う間に大袋が空っぽにされている始末。
すると、
「お〜い、妖一。自分だけとっとと行っちまう奴があるか。」
「あ、すまんすまん。」
部員のあれこれ、きっちり把握しているほどの名コーチ殿。
幾らなんでも、
坊やの ちまりした腕で抱えられるだけの量しか
持って来ないってのはおかしくて。
こちらへ着いたとほぼ同時、
たまたま通りがかった総長さんに半分持ってもらったのであり、
今やっと残りの半分がご到着。
「にしても大盤振る舞いだよな。」
「えっへっへvv」
実をいや、送ってくれたおねいさんが
お店の皆さんへの差し入れにと買っていたののおすそ分けであるらしく、
「うん。代金は出してくれたvv」
「……相変わらず、世渡りの上手い奴だよな。」
「どうせ、可愛い子ぶりこの大盤振る舞いしたんだぜ?」
えへへぇvvと微笑うお顔がまた、憎たらしいほど愛くるしくて。
それを素直に認められない自分たちは、どんだけスレてしまったのかと、
ふと…我が身のすさみようを顧みたりする殊勝な顔触れもいたようだけれど。
“そうまで疑り深くなったのは、そもそもこのチビのせいだろうにな。”
まま、それを言っちゃあ終しまいだろうから、武士の情けで黙っとこうと、
ちょっと上から目線で思った総長さん。
そんな火種をこの部へ持ち込んだ張本人が言ってもなぁと。
こそり思ってしまった筆者だったりしたりして……。
「井上、銀、まだあんぞ〜。」
「おお、こっち真っ白ですねぇ。」
「それは皮にタピオカが入ってんだと。」
「…………あ、そうそう。
さっき俺が1つだけあめ玉入れといたから、
それ当たった奴は今日のボール当番な。」
「おいおいおいおいおいおい。」
〜Fine〜 11.11.13.
*昔は甘いの苦手でしたが、
煙草やめてお酒も呑まなくなったら、
結構、食べられるようになりましてね。
鯛焼きは、薄皮でクリスピーなのが好きvv
いっぱい買い過ぎたら冷凍して、
食べるときは50度解凍してから
オーブントースターで仕上げると、
パリパリが復活してグッドですvv
めーるふぉーむvv
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